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いつか千利休を演じたい。
それがお茶を始めたきっかけです。

いつか千利休を演じたい。
それがお茶を始めたきっかけです。

春風亭小朝さん
(落語家)

昭和30年3月6日、東京駒込生まれ。昭和45年、春風亭柳朝に入門、昭和55年25才で真打昇進。年間200回を超える独演会、講演会を行い、特に歌舞伎座三夜連続、銀座博品館劇場30日間連続独演会、その他新橋演舞場、京都南座と大劇場での公演を多く企画する。落語以外にもドラマ出演や、クラシック音楽、ジャズの会を自らプロデュースするなど様々な活動を展開し、いずれも高い評価を得ている。

お茶(茶道)をはじめたきっかけを教えてください。

ドラマで「千利休」をいつか演じてみたいと思ったのが動機です。通常は役をもらってから稽古をするのですが、先に心得ていた方が良いかなと思って3年位前に始めました。ちょっと行って休んで、ちょっと行って休んで、という感じです。日常生活でお茶から離れてしまうと、また1に戻ってしまうので、自宅などでもっと出来たらいいと思うんですけど…。お茶をやっていると無になって、お茶の事だけ考えられるのがいいですよね。

お茶を始めてご自身の考え方に変化はありましたか?
また、日本文化に常に触れておられると思いますが、後世に残していきたいものはなんですか?

定期的に様々な伝統文化にたずさわる先生をお呼びして、若手の噺家に対して講義をしていただく教室をやっています。「日本人が何を考えて、何をやってきた人たちなのか。」ということを学ぶことが軸なんですが、お茶も陰陽五行と関係していたり、能など他の伝統文化との共通点があったり、それぞれの点と点をつなげていって、少しずつ線にしていけたらなと思っています。
何を残していくかというと難しいなあ。色々勉強していくと日本独自のものがあまりないということが分かってしまったし。ルーツは中国から来ているものとかね。 ただ、そうやって淘汰されたもののなかで残った精神は大切だと思います。
そういう精神は、受け手の感性があって初めて成立することが多いですよね。例えば、昔は自分より目上の方をお招きして食事を馳走するといった時に、一膳の中に梅干しが置いてあったそうです。これは何のためなのか?それは自分より目上の方に口を潤してもらって飲み込みやすくするという理由なんです。こういう考え方とかすごいな、と思うんですよ。相手に配慮するということですよね。 今、家でおばあちゃんに梅干し見せる人なんていないでしょう?すごいですよね。この発想は外国にはない日本独自のものだと思うんですよ。 奈良の高山に行った時に、日本で竹が取れなくなっていて、中国製の茶筅が多くなっていると聞きました。それってとても大事なことだと思うのですが、皆さんあまり関心がないように感じます。 竹が一般的に生活に必要かというとないのかもしれないけれど、茶筅が竹製ではなく、プラスチックでよいのか。ものごとを知らなくて恥ずかしくないのか、ということだと思います。こういうことを残すというより、高座で話をするようにしています。昔はこういうことがあったんですよ、とね。

日常生活には変化がありましたか?

昨年の正月、時代劇で江戸家老の役をやったのですが、お茶とお花に通じている役だったので所作を知っていたことがとても役にたちましたね。京都での撮影だったので先生がつかない状況で所作がわかることはとても助かりました。 あとは、料理屋さんで最後にお茶を点てるところが増えているので、そういう時にまごまごしなくてすみます。

お茶をされていない方が、お茶をはじめるなら?

僕の経験上、お茶に慣れている方と茶会に出るのがいいと思いますよ。やっぱり楽しいです。美味しいもの食べられるし、終わった後の清々しい感じもいい。
まずは経験。お茶を知っている方に「茶会に行きたいです!」とお願いしてみたらいいんじゃないかな。親しい人に囲まれて気楽に参加できることが条件ですけどね。

本日お持ちいただいたお道具のエピソードを教えてください。

「はてなの茶碗」の茶会の際使われた茶碗
落語の「はてなの茶碗」を流しながら茶会をされた先生が、その会で使われた茶碗です。陶芸家の方に頼んで特別に作ってもらったみたいです。 「はてなの茶碗」はぱっと見問題のない茶碗がどこからともなくお茶が漏れるという噺なんですが、これもどこからかじわーっと漏る茶碗なんです。面白いでしょう。

お茶を題材にした落語は沢山あるんですか?

お茶の噺は5つくらいありますね。木村宗慎先生にアドバイスを頂きながら大きく作り替えた噺があるんですけど、なかなか難しいですね。お茶と聞くだけで引くお客様がいらっしゃる。特に歴史が絡んでくると専門的な言葉がでてくるので、私とは関係ないと思うんでしょうか…。知らないことが出てくると、シャッターが閉まってしまう。戦国武将の名前が数名とお茶の専門用語が出てくるともうだめ。それを騙し騙しひっぱっていくわけなんですけどね(笑)。 今後もお茶の噺は作りたいと思っています。歴史上の人物って大概一席はあるんですが、利休はないんです。でも役をやりたい方が強いかな(笑)。

あたためているお茶会のプランをそっとおしえてください。

変な時間帯がいいですね。暁の茶事とか。あとは料理に凝るだろうなあ。料理家の方と相談したりして楽しいじゃないですか。 あとは、お掃除ロボット走らせてみたり、真剣を構えてみるという時間をつくったり。お茶から派生したいろんなものを体験できる茶会とか面白いですよね。茶会は時間も内容も色々あるので面白い。あと、陰で笛を吹いてもらい茶会をやる「笛の会」とかね。

編集後記

千利休はその昔、お茶で一番大切な道具は茶巾である。と言ったそうです。そして、奈良の麻生地を茶巾として愛用していたと。茶論のルーツである奈良の麻、私たちも千利休にはとても深い縁を感じています。いつか、小朝師匠の演じられる千利休を拝見するのがとても楽しみです。

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