読み物

お茶ってカッコいい!
カジュアルに愉しむ
毎日のお茶。

加藤麻希さん
(株式会社 船場 レゾナンス・ラボ 所長)

専門店設計施工営業やSC開発における開発調査からテナントミックス業務に従事。 2009年に生活者マーケティング機関であるレゾナンス・ラボを設立、現職。 社会動向や環境変化から生まれる生活者の価値観の変化に注目し、売り場動向に 紐づけて研究発信を行う。現在は、「売る場」「買う場」づくりから「生活者にとって居場所とは?」 に視点を移して活動を行う。毎月「Resonance Monthly Report」と題し、変化の兆しに関するレポートを発信中。

お茶(茶道)をはじめたきっかけを教えてください。

20代になる時だったと思います。実家がある名古屋で特に大きな目的もなく大学生をしていたときに突然、「このままじゃまずいな」と思って一念発起し、全てにおいて古典のものを習いはじめたんです。そのときにお茶とお花含め、ドストエフスキーの『罪と罰』といった西洋の古典文学なんかも読み始め2年位続けたと思います。当時はバブル期だったので、新しいことには限りがなくてつまらなく感じたんでしょうね。だから次に新しいことは古典だ、という感覚でした。

実際にお茶を始められていかがでしたか?急に畳の感覚とか。

茶道教室に通っている時に取られた裏千家の許状
茶道教室受講時に取られた裏千家の許状
最初は本当に合わなかったです。母の知人の紹介で神社が開いているお稽古に通っていたのですが、厳しいし面倒くさいしで、「もうなんだこの世界は」と。そこは、旦那様が茶道の先生で奥様がお花の先生だったのですが、お花はあまり得意ではありませんでした。お花は自分の好きな生け方だけでは直されてしまいます。それが、ルールからなのか、先生の感性からなのかわからなくて。でも茶道は明確なルールがあってそこから膨らませていくから納得感がありました。また、茶道には、襖は三手で開ける、畳のヘリは踏んではいけない、といった日常的に“普通”のことで知らなかったこともお稽古で教えてもらえるので、そういう小さな気付きが面白かったです。

映画『日々是好日』にも近しいシーンがありましたね。お茶は型があって、そこに気持ちを込めて初めて自分のお茶になる、といったくだり。

今思えば全てに理由があったと思います。点前の手順もすごく合理的じゃないですか。でも先生は最初はなぜそうなのか教えてくれない。稽古を重ねて自分がそれを体得出来たときに初めて気づくことがたくさんある。先生はそれを見守ってくれているような。

普段はお茶をどのように愉しまれていますか?

毎日のお茶は火鉢で沸かした鉄瓶のお湯で
毎日のお茶は火鉢で沸かした鉄瓶のお湯で
実は最近までは全然やっていなかったんですよ。旦那さんが昔から古いもの(アンティークやビンテージ)などが好きでたまにお抹茶を飲みたい、ということはあったのですが。でも『茶論』のお店で茶筅と茶杓と小さな竹の花入れを欲しくなって買ったらやり始めました。

加藤さんは「レゾナンス・ラボ」という組織のリーダーをされていて、商業施設のお店づくりや街の環境づくりなどをなさっていますが、今と昔と比べて変化はありますか?

そのことについては常に考えていますが、明確な答えがあるわけではありません。ただ、これまでのお店づくりは“よそ行き感”を作っていたところがあるのですが、ある時からクライアント様からのリクエストも変わりました。嘘っぽい、見せかけのお店はお客様に通用しない、本当のちゃんとした道筋を見せていきたい、と。望まれるものは、居心地がいい、とか、お店がお客様に伝えたいメッセージがちゃんと伝わる空間であって、よそ行きのやりすぎな感じはもう違うんだろうな、というのは感じています。

そうした時流の中で我々が『茶論』という事業を立ち上げたことを
どうお感じになりましたか?

『茶論』の原案については代表の中川政七さんにずっとお伺いしていたアイディアだったので大きな驚きはなかったのですが、昔ながらのしきたりやスタイルをどのレベルで解釈されるのかはすごく興味がありました。茶道ってお点前自体はすごく面白いと思うし、お茶自体も健康に良かったりコーヒーよりも簡単なのに、教室に通うのはちょっとおっくう、という心理的な垣根もありますよね。中川さんのことなのできっと、先生と生徒さんの境目が高すぎない感じになるだろうな、という感じはしていました。茶道具も全部いきなり揃えるのは大変だから一つずつでも集められたり、デザインもかわいかったり。もっと日常的で、もっと広まっていい、というメッセージが伝わります。これまで妨げになっていたことがこうした試みで変わるといいな、と思っています。

お気に入りのお茶道具を教えてください。

アイディアひとつでお茶もぐっと身近に
日常的に使って経年を愉しんでいるそう
“茶道具”としてのお気に入りかどうかわかりませんが、この竹の花入は気に入っています。これは我が家みたいなマンションにも飾っておいてもやりすぎ感もなく、単に投げ入れておいてもいい感じに雰囲気が出るところが気に入っています。すまして狙った感じよりちょうどいい感じに緩いくらいがいい。もう少し飴色っぽくなってきてほしいなと思ってエイジングも愉しんでいます。

あたためているお茶会のプランをそっとおしえてください。

温めているプランは特にはないですが、野点がいいですね。カジュアルな外のお茶会。暖かくなったら奈良町店のお庭を開いてお茶会も良さそう!

これからお茶を始めてみようと思っている方へメッセージをお願いします。

お茶の本当の愉しさなんて私には言えないですが、お茶ってカッコいいからやったほうがいいと思います!私は単純に、カッコいいかカッコよくないかでやることを決めたいから、カッコいいからやる。前の話に戻りますが、お花って自分にはカッコよくなかったんだと思います。成果物を見せて「どうだ!」と評価される。商業施設も一緒かも!今まで温室で育ったお花のいいところだけを切り取ってみんなに見せたいところだけを見せていた。でも今の人って、どういう土で、どう耕されて、どういう葉が育って、というところに興味があって、そうしたストーリーがこれから必要とされるところ。ちゃんと工程がある。お茶も一杯のお茶を差し上げるためにしっかり工程を大事にする。きっと私がお茶に惹かれた共通点はそこですね!例えば私は、“茶筅通し”が好きなんです。(お茶を点てる前に茶筅を清める動作)あれをされると自分がすごく特別になった気持ちになる。きっと、人それぞれお茶の好きなところがあると思います。茶道の全体を通して、相手のことを思う本質的な良さを思い出させてくれるんですね。お茶ってやっぱりカッコいいですね!

編集後記

取材に伺ったご自宅は、ご夫婦のビンテージコレクションがセンスよくデコレーションされたとっても心地のよいお宅でした。火鉢に掛けられた鉄瓶でお湯を沸かし、HASAMIのスープカップを茶碗代わりにして日々のお茶を愉しまれているそうです。チャーミングに自然体でお話くださる加藤さんですが、カッコいいからやる、という芯の強いところやストーリーを大切にされるお仕事の考え方を伺うにつれ、加藤さんの全てを「カッコいい!」と思わずにはいられませんでした。こういうオリジナリティに溢れるお茶の愉しみ方がもっともっと広まっていって欲しいと願います。

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