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お茶道具から知る人気建築家の
良い物の基準。

お茶道具から知る人気建築家の
良い物の基準。

谷尻誠さん
(建築家)

1974年広島生まれ。2000年、建築設計事務所SUPPOSE DESIGN OFFICE設立。2014年より吉田愛と共同主宰。広島・東京の2ヵ所を拠点とし、国内外でさまざまなプロジェクトを手がける傍ら、大阪芸術大学准教授なども勤める。最近では「社食堂」や「絶景不動産」「21世紀工務店」を開業するなど、活動の幅も広がっている。

お茶(茶道)はやっていますか?

習ったことやお茶会に行ったことはありませんが、妻がお茶をやっているので、家でお茶を点ててもらい、飲むことはあります。お茶も和菓子も好きですよ。
煎茶は家で淹れたものをボトルにいれて持ち歩いたりします。

お茶(茶道)に対するイメージを教えてください。

硬いイメージ。(笑)
ルールが面倒な気がします。怒られると学び欲がおちるし、提供する方からしたら「美味しい」というコメントが一番嬉しい。それで良いんじゃないかな。守ることで、引き継がれるものもあるし、守りすぎると、引き継ぐ人がいなくなる気がします。
建築家としては、「お客様をもてなす場」として興味があります。
日本には、草花を活ける、客をもてなすために空間を設える。という文化があったのに、だんだんと家に客を招かなくなっていますよね。そのことが日本の空間レベルが成長しない理由の一つにあると思います。海外ではもっと頻繁にホームパーティなどが行われるので、花を買い、良い空間で食事をしようというのがあたりまえに行われるけれど、日本での家の考え方は「外からどう見られているか」に意識がいっていて、本当の内側まではいっていない。人をどうもてなし、どういう体験をしてもらうかという意識が低いと感じます。なので、「もてなす場を作る」という機会が生まれることは賛成です。

どんな場所があればお茶をはじめてみようと思いますか?

お茶をはじめてみようと今のところ思わないのは時間がないからです。今は他に優先順位が高いことがあるので誘われてもやっていないのですが、お茶をはじめると、自身の振る舞いが変わるのではないかと思います。お点前も興味はあるけれど、それよりも姿勢が変わって自身の振る舞いが変わるきっかけになるんじゃないかという点に興味があります。
あと、マインドって大切だと思っていて、今、英会話の勉強をしているのですが、気にしていると海外の仕事が自然に増えてきたんです。お茶の勉強をして、マインドがそちらに振れると関連の仕事が増える気もしますね。

建築家として茶室に興味はありますか?

あります。外界を閉ざしているところ、そして外の景色があるところが良いと思います。
以前、自身の本を出版する際に筆がなかなか進まず、すべてを遮断するために茶室にこもって執筆したことがあります。携帯もなく、外界と一切遮断された状況でやることがなくて書くことが出来ました。(笑)いや、茶室には場の持つ雰囲気、緊張感がありますよね。やるしかないという気持ちになりました。
正当なものではないのですが、茶室を作ったこともあります。1階がギャラリー、2階が住居という案件だったのですが、クライアントさんからどこかにお仏壇を置く和室が欲しいとのオーダーがありました。
ただ、お参りするだけの部屋にしてしまうと、それ以外ではほぼ使われなくなってしまう。2階にあるよりも、1階に離れのような形で小さな茶室を作ったらどうか?と提案したんです。和の展示室にしてもいいし、毎日お参りに行くという精神性を考えると一旦一回外に出てそこに行くという形が良いかと思って。広島で3畳の茶室を組み立てて、そのまま運んで置きました。小さいから出来たんです。これは、機会があればまたやってみたいですね。

お茶にまつわるお気に入りの道具を教えてください。

ヨーガンレールの湯飲み
いつもお茶を飲んでいる湯飲みです。
自分達で金継をして使っているのですが、リペアすると既製品がオリジナルになる感じがファッションぽくて面白いです。
僕がものを良いと思う基準は理屈や金額ではなくて、”直感”です。美しいかどうか。
「よくわからないけれど良いが無敵」といつも言うのですが、説明できるということは、良い部分が明確だということ。それだと、その部分がなくなると悪くなる。”よくわからなくても良いもの”は、何かがだめでも”良い”が残る。ずっと良いものである強さがあると思います。「よくわからないけど良いね。」というものが一番良い物だと思っています。
自身で設計する時にも、「右脳先行、左脳後追い」と言うのですが、左脳で理屈を説明をし始めると皆、納得するけど、感動はしない。食べ物も産地や作り方みたいなうんちくよりも「うまい」が先に来るべきですよね。ゴミもアートも同じ基準です。
「なんか良いね」というのは、自身の「美意識」で判断されるものじゃないかな。

谷尻さんの「美意識」はどうやって培われてきたんですか?

親からだと思います。育った家がボロかったけど、掃除を毎日きちんとする家だったんです。食べ物が落ちても、床を毎日拭いているから食べられる。と教えられました。
子供の頃はそれが嫌だったけれど、今思うと、すごい事だと思います。大事に使っていれば美しいものという考え方はそこからですかね。五右衛門風呂だったり、不便な家だったけれど不便だからこそ、いちいち考えたりしますよね。不便の美学というか。不便だからこそ豊かだと思うんです。
住宅の設計でも、クライアントさんには便利な家より不便な方が愛着が持てますよ。と伝えます。隣にいる旦那さんも便利じゃないところがあるでしょ?なんとも思い通りにならないところが愛着になって、時々思い通りになると「やった!」となるでしょう。と。(笑)

住宅の設計は、今後も続けていかれるんですか?

住宅、面白いんです。時間がかかるので、正直儲からない。ただ住宅の設計は店舗設計にも通じるところがあります。お店も非日常的なものより、そこにある日常性を自分のものにしたくて通いますよね。なので僕は店も住宅を作るように設計します。どんなに会社が大きくなっても住宅をやり続ける会社でありたい。もうライフワークですね。

編集後記

住宅、商業空間、アートのインスタレーションなど多岐にわたり素敵なデザインをされる谷尻 誠さんの良いもの基準は自身の「美意識」からくる直感というお考えは、茶論のお茶を通して美意識を磨くというコンセプトと通じるものがありました。 いつか谷尻さんの作る茶室でお茶を一服いただく事を愉しみにしています。

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