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茶道のこと

はじめての「茶扇子」の選び方。京都の老舗で聞く、扇子づくりのこだわりと魅力

はじめての「茶扇子」の選び方。京都の老舗で聞く、扇子づくりのこだわりと魅力

茶とは何か。

稽古をはじめる際、まず最初に用意する小さな道具の一つひとつがそれを教えてくれます。

たとえば「扇子」。涼をとるために使うことは無い。第一、広げて使おうにも、いやに小さくて、パタパタと扇(あお)いでも風が起きるとも思えない。でも必ず身につけて持っていなければならない…。

茶席に限らず、芸能や儀式のさまざまな場面で用いられる扇。平安時代の日本で発明されて世界に広まりました。そのはじまりは、涼を呼ぶためなどではなく、貴族がメモを取るための小道具だったとか。

木片を重ね合わせた檜扇が変じて、軽さと強度から、紙と竹が素材となり、今のかたちが出来上がっていきました。時に神の依代(よりしろ)ともされ、神聖な道具として祝いの席や祭礼等にも用いられています。

“神=かみ=紙”なのだ、との教えを耳にすることも。
神事に真っさらの紙はつきもの。それを折りたたみ鎮めた扇のさまは、確かに神々しい緊張感をたたえています。

茶席においても閉じられた扇が印象的な小道具として、主に挨拶などに使用されます。扇子を真横一文字に膝の前に。これが自他の境(結界)となり、我が身は一段へりくだる。相手を敬う気持ちを伝える所作です。

小さくとも大事な道具。おざなりにせず、きちんとしたものを手にしたい。
では、これから茶道をはじめよう、お稽古を頑張っていこうという時に、どんな観点で扇子を選べばよいのでしょうか。

京扇子の老舗「宮脇賣扇庵」に聞く扇子づくり

京都市中京区 六角富小路に本店をかまえる“京扇子”の老舗「宮脇賣扇庵」。同店 店長の小林聡さんに、扇子づくりのこだわりや見るべきポイントなどについて聞きました。


京扇子は、その名の通り京都で生まれ、発展してきた扇子。小林さん曰く、そのもっとも大きな特徴は分業制でつくられること。江戸で発展した江戸扇子が一人の職人の手で一貫生産されるのに対して、京扇子は20以上に分かれている工程それぞれを専門の職人が担当し、多くの人の手を経て作り上げられます。

シンプルな構造の中に詰まった職人技


ひとつの扇子が仕上がるまでには数ヶ月かかることも。その工程の中で「八十七回に渡り職人の手を通る」とも言われ、竹の骨組(扇骨)と和紙(扇面)でできた非常にシンプルな構造ながら、そこには想像を超えた職人技が詰まっているのです。



例えば扇面の和紙にしても、一見、両サイドから2枚の紙を貼り合わせて作っているように見えて、実はここには3枚合わせの紙が使用されています。

真ん中の紙を“芯紙(しんがみ)”と呼び、その芯紙が両サイドの“皮紙(かわがみ)”に引っ付いて2枚に割れる仕組みになっていて、その割れた穴に骨が差し込まれ、美しく仕上がります。



分業制だからこそ高められるクオリティ

多くの職人を介して作り上げる分、コストや時間も多くかかってしまいますが、それでも譲れないのは、京扇子の名に恥じない品質を担保すること。

「手間は掛かりますが、それぞれの職人が互いに甘えを許さず、間違いも指摘して高め合っていることで、確かな品質の扇子が仕上がってくる。我々も、プロデュースする立場としてクオリティをきちんと追求していきたい」と、小林さんは話します。


(宮脇賣扇庵 小林さん)

扇子の良し悪しは「ため」と「要(かなめ)」で見る

扇子の良し悪しの見分け方を尋ねたところ、ふたつのポイントを教えてくれました。ひとつ目は『ため』の部分。

「紙の扇子は、閉じたときに一番外側にくる親骨が、内側に向かってグッと反るように曲がっています。『ため』と呼ばれるこの工程によって、扇子がパチンときれいに閉まり、扇子全体のバランスを整えています」

もうひとつは、扇子を開くときの軸となる『要(かなめ)』の部分。

「『肝心要』という言葉がありますが、要が緩いと、開いたときにしっかりと留まらない扇子になっていまいます。逆にきつすぎると開閉しにくい扇子になってしまう。要がいい塩梅かどうかは重要です」

この「ため」と「要」に注意しつつ、「実際に触ってみて開け閉めしやすい、手に馴染むもの」を選ぶことが重要になりそうです。


好みのもので、少し背伸びをした一本を

扇子としての良し悪しとは別に、茶道に使う上で気をつけるポイントはあるのでしょうか。

「店頭で接客していて感じるのは、皆さん『無礼があってはいけない。間違ってはいけない』という思いがまず先行しているということです。私共としては、デザインや質感、使い勝手などを考えながら『こんな扇子を持ちたい。使いたい』という楽しい気持ちで選んでいただきたいと思っています」

茶道初心者の立場からすると、どうしても「ルールに準じなければ失礼になってしまう」という思いが強くなるもの。しかし、実は色や大きさ、扇面のデザインなど、これでなくてはいけないという決まりはないそうです。


茶論の総合監修を務める木村宗慎氏は、「実用的な目的、あおぐための扇子は別としても、茶扇子でさえあれば、基本的には好きなものを選んでよいのです。そもそも茶人好みの扇にも、寸法や意匠はさまざま」と話します。

ただし、できるならば自分の予算から少し背伸びをしたところで、きちんとしたものを求める。それが、真剣に選ぶことにも通じ、結果、大事にするようになり、扱いそのものも自ずと良くなるとのことでした。

閉じていて美しい扇子


茶道における一番身近な道具のひとつであり、それでいて、熟練の職人技が集結することでのみ完成し得る精緻な工芸品。

創業から200年近く、宮脇賣扇庵が今なお完全分業制を保っていることはある種奇跡的なことと言えるでしょう。

冒頭でも触れたように、茶扇子は基本的に閉じた状態で使用します。普段は折りたたまれているけれど、開けたときには自分の好みや季節に合った絵柄がある。そこに内なる充実がある。と木村氏は言います。


また、「きちんと紙が吟味され、絵が描かれ、数多の工程を経て入念につくられた扇子であればこそ、閉じていても美しい姿になる。佇まいの見事であること、これは良い道具の全てに通じる条件です」とも。

熟練の技や分業である訳、今に遺された奇跡を思いながら、真剣に自分が使いたいものを選ぶ。ずっと使い続けられるはじめての一本、美しい扇を手にしていただければと思います。


(小林さんと木村氏)


※茶論が宮脇賣扇庵とつくったオリジナル茶扇子についてはこちらのページ
をご覧ください。

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